接点
 もう寝ようと思って電気を消した部屋の中で、微かな震動音が響いてディスプレイが光った。
 手を伸ばして二つ折りの携帯を取って、そのまま片手でぱかりと開くと、闇に慣れ始めていた目に画面の明かりがひどく眩しかった。
 送信者を見て、少しだけ躊躇する。
 今日は、バイトの歓迎会だかサークルの飲み会だか何だかで、会えないんじゃかたったっけ。電話も無理なんじゃなかったっけ。
 本当は、私との先約があったのに。
 どうしても抜けられないからとか言って行っちゃったんだ。
 だいたい何の飲み会だったんだろう。ほんとは合コンとかだったりするのかな。
 疑い出せばきりがないので、いつも考えないようにしている。
 全てを、知ることなんて所詮無理なんだ。
 だから聞かない。私も言わない。
 些細な秘密を持ち合ってそれでも、私達は上手く成り立っている、と、思う。

 少しずつ眠気が忍び寄ってくる頭を無理に切り替えて本文を開く。そこには、今日の飲み会の事やら、約束破ってごめんなんてなんて事にはひとっつも触れてなくて、たった一行。

   あしたはひま?

 全部ひらがなの短い文章がばかっぽい。けど、これは彼がばかだからと言うより、向こうも相当眠いからなんだろう。飲み会終わったのかな。帰る途中なのかな。
 そう思ってちょっと笑った。
 まぁいいか。
 ほんとうは。気にならないわけでもないけれど。
 ドタキャンされて多少気分が、ささくれていたりもしたけれど。
 まぁいいか。一応メールくれたから。
 なんとなく顔が緩んで、ついでに眠気が増してくる。
 明日は暇だって、返事を…返事をしなくっちゃ…と思うけれども、引きずり込まれるように意識が薄くなる。

   ねむい……

 だいたい、こんな時間に送ってくるのがいけないんだよな…それにもう日付越えてるから今日じゃないか…
 夢か現かの瀬戸際でそんなことを考えていたら、もう一度手元で携帯が震えた。
 ああこれはきっと、明日どうする?とか。時間とか。そういうメールだきっと…
 でもいいかもう。明日で。だってすごい眠いもの…

 まだ何も決まってないけれど。
 きっと明日は君に会える。
 何の計画もないけれど、でもそれだけで十分だ…

 沈むように途切れた意識の先の眠りは、ひどく暖かで柔らかかった。
 明日は君に会える。
 今は一人で今夜は淋しくても。
 何でこんなに急速に眠くなったのか、本当は分かる気がする。
 安心したんだ。
 私、ちょっと何かがこわかったかな。
 だけどほんの少しだけまだ癪だから、そんなことは教えてあげない。
 まぁいいや。
 とにかく明日は君に会えるだろう。
 それだけで過不足なく満ち足りて、私はあっさりと眠りに落ちた。
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by ichimen_aozora | 2005-02-05 03:36 | ふたり sideA
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