手に入れたもの
付き合ってもうだいぶ経つから、とか、それ以前にもう何年も友達だったから、とか、きっとそんな理由からではないけれど。
あんまり電話はしない。
別に、不満はない。

ずっと前から友達だった、という風に、人には説明するようにしている。
ずっと前って、それはもう本当にかなり前だけれども、別に生まれたときから隣にいたとか言う関係ではなくて、要するに、幼馴染と言えるのかどうかの境界が分からなくてそう言うことにしている。
どちらかというと、幼馴染にはなりたくないと思う。何となく。
腐れ縁、というほど縁があるわけでもないと思う。
ここまで長い付き合いなのは、双方の努力の結果だ、きっと。無意識だったにしても。
だから友達でいい、と思う。
友達だった、でいいと思う。

友達同士、の二人が付き合うに当たってはかなりの労力と思い切りを要する、ということを私は学んだ。
近くも遠くもない関係はぬるま湯のように優しく柔らかく居心地が良くて、わざわざ波立たせるなんて馬鹿馬鹿しい気がしてしまったり。
このままでいいじゃないかと、まぁ数え切れないくらいは考えた。
このままじゃいられなかったから付き合ったようなもので。

緩く優しい距離感の中で、私たちにはほとんどの事が許されていたけれど。
手は繋げなかった。それからキスも。
相手が目の前で泣いていても、見守る事しかできなかった。
引き寄せる事は出来ずに。
もう少し、あと一歩、近づきたいと思ってしまったらもう。
その安全な場所にはいられずに。
よく慣れた存在感、それだけでは。
物足りなくて、もっと直接的な。
熱が欲しかった。
例えば涙で濡れた頬をかばうように、包んでくれる掌の熱。

それが欲しかった。
そしてそれ以上は。
特に求めはしなかった。






あんまり電話はしない。かけないし、かかっても来ない。
余りに連絡をとらないのもどうだろうかと思って、一応メールくらいはするようにしている。
世間の発展はたいしたもので、出会った頃には見たこともなかった携帯電話が当然のように手元にある。科学の発展はすばらしい。
よって当然、手紙なんてはかかない。

一緒にいないときには、何が変っただろうか、と思う。
特別な約束は何もないし、特別に情熱的な行動も何もない。
声が聞けなければ淋しくて動けないということもないし、じっと連絡を待ってやきもきしていたりなんて事もない。
何も変らなかった。それでいい。
何も変らなくて。私達は。
欲しい物を手に入れた。
手に入れてしまった。
そのときから、いつか失われるかもしれない未来を一緒に背負って。

ずっとずっと友達でいれば。
きっと永遠も手に入ったけどね。
永遠はとても魅力的で、安らかで素敵だけれど。
敵わない。絶対的に。
手に入れてしまった温度には。
例え一瞬だけだったとしても。
自分以外の者に守られる感覚は。

格別だった。
そしてその感覚が。
私たちをそっと拘束している。
引き換えに失ったはずの永遠を
熱望するほどに
甘く甘く私たちを縛る。
天上の果実のように。
魅力的な毒のように。

あんまり電話はしない。メールも数えるほど。
特別な約束はない。もちろん何の誓いも。
私達は、とても自由のように見えるけれども。
君がいる。という事実を。
もう無には戻せない。
君といる、という日常を。
忘れる事は出来ない。
もし、いつか、壊れてしまっても。
もう戻れない。
それでも。
緩く優しい距離感の中の永遠を
二度と手に入れられない二人の掌は
今日もゆっくりと重なる。
確かな熱を持って。
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by ichimen_aozora | 2005-02-22 23:53 | ふたり sideA
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