理由 (君の街 vol.8)
「より戻したりはしないのか?」
「今更か?今更だろう?」
「そうかな」
「そうだろ。だってもう何年前だよ。俺、今、彼女いるし」
「そんなこと、関係ないじゃん」
「そういうわけにもいかないだろ」
「片山は?」
「さぁ。ちょっと前は誰かと付き合ってたけどな」
「指輪してたってさ」
「指輪くらいするだろう。もう、ガキじゃないんだし」
「どんな指輪だったかは知らないけど」
「お前の弟か?情報源は」
 ちょっと困ったような顔をして、滝が珍しく言い当てた。




 未だに野球馬鹿の滝は、大学で体育会の野球部に所属した上に母校の野球部のコーチまで引き受けていた。弟は、ついこないだまで滝の指導を受けて遥か遠く甲子園を目指していた。あの頃の滝みたいに。無理だと思っていても、たぶん本気で。
「よく分かったな」
「夏に一度、言いにきたんだよ」
「なんて?」
「お前と同じ。より戻さないんですかって」
 やっぱり血は争えないんだろうか。弟は俺と同じ人を好きになって、滝に同じ事を言って。好きなら人のことなんか気にしないで強く出ればいいものを、それが出来ないところもやけに似ている。
「こないだの夏休み、片山帰ってたんだって。知ってた?」
「しらねぇ。連絡ないもん」
「で、図書館で会って、弟と一緒に勉強なんてしてた」
「図書館…」
「お前らがよくいたあの図書館」
「まったく、何年たっても何も変らんもんな。この街は」
 滝が気まずそうに苦笑して、俺はそんな滝から目をそむける。
 何でこいつらが別れて、ずっと今も、一緒にいないのか。そのことが俺にはどうしても上手く府に落ちなくて、そのせいでいらない気を使ったりする。
 二人が一緒にいてくれさえすれば俺は、片山の事なんか心配にならなくて、俺の気持ちなんかも、直視なくてすんだのに。
 滝には新しい彼女がいて、片山には今の彼氏がいるらしい。
 だから、それが、なんだって言うんだ?
 そんなこと、何の理由にもならないじゃないか。
 好きならもう一度、やり直せばいいじゃないか。
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by ichimen_aozora | 2005-07-20 02:05 | 君の街
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