逃避行 (遠い空 vol.1)
 一番好きな人には恋人がいて、自分の入る余地も可能性もないことは分かっていた。そういうとき、どうすることが一番正しいのだろう。
 私はあまり迷いもせずに、他の人からの告白を受け入れた。結構仲がよかったし、割合と好きだったし、差し当たってはうまくいくような気がしたからだ。
 罪悪感などはなかった。まともな選択だと思えた。
 だけどあるとき、一部の人から随分とキツイ反感を買っているらしいことを知った。
 別に人が内心思うことには制限はないが、それでも気付いてしまえ気にはなる。個人の勝手だろうと反論したくなる。

 自分のほうが好きなのだから身を引けというのか。
 そうでないなら、では、私にどうしろというのか。

 一番でない人と付き合うことが卑怯だなんだと言われるのなら、私は誰かと、恋をすることなんてもう出来ないかもしれない

    ☆

 もしかしたら自分が思っているよりは、私は人の気を引いているのではないかと初めて考えた時、もうすぐ二十歳になろうとしてた。その頃私は、長く続いた重大でかけがえのない日々を閉じたばかりで、いまだ慣れない土地に一人、どうしたらいいか分からないでいた。
 もう随分と一人でいた気がしたのに何故だろう。別れよう、の一言は重く確かに、日常の間に間に長い間響いた。
 何も変わらない、はずなのに、結局のところ私は寄る辺を失ったのだ。

 頼りない浮遊感に苛まれて歩き回ってばかりいた。言い出したのは自分であるくせに、立ち止まれば気付けば泣いていたりするから、ずっと歩き回ってばかりいた。
 そうだね、と簡単に同意されたのが悔しかったのかもしれない。止めてほしかった。遠いところにいった存在等、その程度かと思い知りたくはなかったのだ。
 好きなだけでは全てがうまくいくわけでもないらしい。そんな自明の理に気付く程度には、大人になっていたらしい。もっとも本当は、初めから結末は読めていたはずなのだ。ただ見ないようにしたかっただけで。
 それでも私は故郷から飛び出したのだ。飛び出さなければと痛切に思ったのだ。それは確かに、正しい選択だったのだけれど

 やはり我が儘だったのは、私だけかもしれない。今になってそう思ったりする。
 たぶん今になったからようやく、なのだけれど。





 終わったからといって直ぐさま切り替われるわけでもなく、言い出したからといって気持ちが冷めていたわけでもなかった。
 高校を卒業し、空間的に初めて離れたことで、私は自分の想いの重さに愕然としたのだ。
 とてもじゃない。とてもじゃないけど一人ではささえ切れない。膨らみ続ける利息のように増し続ける恋しさは、やがて私を追い詰めた。そのうち彼のことも追い詰めるだろう。

 それは、あってはならないことのように思えた。

 たぶん、私は逃げただけなのだ。綺麗な言い訳をつけて、辛くなった恋から逃げたのだ。
 受け止めて立ち向かうには、淋しさに打ちのめされていたのだろう。
 あの日々が、いつまでも昇華されないまま今も暗く残るのは、あの時逃げ出したことへの、相応の報いなのかもしれない。
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by ichimen_aozora | 2005-12-24 04:44 | 遠い空
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