アルバムを閉じた。いつか聞いたのと同じ、ぱたりと密やかな音がした。
表紙を上にして、元あったように机のうえに据え置く。 指先に残る、ざらりとしたつめたい感触を確かめるように、表紙をなぞる。 僕のではない、けれど、僕のと同じ卒業アルバム。 僕の3年間も閉じたのだ。この短い春休みをあければ、そこにはまるで、新しい日々が待っている。見知らぬ人と、見知らぬ場所で、僕はまた自分の居場所を、一から作り直していく。 まるで新しいようで、きっと。 どこかで知っているような気だるい循環。それは結構、面倒な事にも思えるけれど。 螺旋階段をぐるぐると上り続けるように、さして変わらない景色を眺め続けているうちに。 いつか僕は、知らずにおとなになるだろう。 いつの間にか兄貴の考えている事とかが、よく分からなくなったように。 僕もきっと、さり気なく滑らかに成長していくのだろう。 何も、劇的な何かなんかなくたって。 僕たちは上り続ける。変わらない毎日に悪態をつきながら、目新しい何かを探し続けて。 ぐるぐると、ぐるぐると、果てなく希望もないような気がしたって。 上げた視線の先には、ぽかんと開けた空がある。 あまりに広すぎる青空の中で、ふいに闇雲な不安に苛まれたとしても。 それでも、僕は、決して独りではないだろう。 親しかった友達と、はしゃぎまわった部活仲間と、ちりぢりに離れてしまったとしても。それでも。 みんな、みんな、ぶちぶちいいながらそれぞれの螺旋階段を、登り続けているに違いないから。 見渡した広大な視界の中に、今はまだ、なにも見つけられないとしても。 いつだって、いつだって、そうだったじゃないか。未知の未来は、いつだって不安を掻き立てるけど。 真っ白な未来は、明るく耀いて僕を誘う。 僕は高校を卒業した。この短い春休みを抜けたら、大学生とやらになるらしい。 大学生の生態というのは、あいかわらず謎に満ちているけれど。 凄く楽しいかもしれないし、別にそうでもないかもしれない。 刺激に満ち満ちているかもしれないし、退屈がまつわりついているかもしれないけれど。 まぁいいや。とりあえず。 振り返ってみた高校時代は別に、楽しいばかりだったはずもないのに。 思い浮かぶ断片はどれも、柔らかに暖かく彩られているから。 だからまぁ、そんな感じで。 まだ見ぬ広大な未来とやらも、きっと幸福な日々であればいい。
by ichimen_aozora
| 2006-02-25 16:56
| 春休み
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