君の名を (vol.3)
「藤森はなんて?」
「え?」
「そのとき何て言ってた?」
「ああ…水野の片思いは終わってないからなって」
「片思い、か」
「片思いじゃないの?」
「いや。まぁそうなんだろうけど」
 果たしてそこまで行ってたかどうかすら、危うい。
 認識していたのは、いつだって際立つように見えた彼女の姿だけで。
 偶然に見つかるのではない、ということに、気付いたのだってだいぶ後のことだった。
 探していたんだ。ずっと。いつだってきっと一人で立っているから。周囲に歯向かうように、全身で風を受けて立っているから。
 彼女は避け方を知らなかったのだろうか?うまくやるコツってのがあるんだと、本当に知らなかったんだろうか?
 何を守りたかったんだろう?
 今となってはもう、彼女自身も覚えてはいないだろうけれど。





「可愛い子?」
「さぁ…どうなんかな。俺、顔とかどうでもいいしな」
「あー。そうみたいねー。じゃぁ、どこが好きなの?」
「別に好きじゃねーよ」
「いまさら取り繕っても無駄だと思う」
 佐々木が、呆れたようなさめた視線を送って寄越すけど。でも。
 好きかどうかなんて今となってはもうよく分からない。
 彼女はだってもう、別人のようなんだ。

「好きっていうか」
「うん」
「ものすごく痛々しかった姿がすごく印象的で、な」
「痛々しい?」
「そう」
「華やかでわがままな子、ってイメージなんだけど。あんたの話からするに」
「そう、だね」
「どっちよ」
「どっちも」
「それって両立する?」
「今は、明るいよ、やたら。でもたまに垣間見ちゃうんだよなー」
「ちらっと?」
「そう」
「で、そのたびに思い出してしまう、と」
「そんな感じ」
 佐々木はふいに大げさに溜息をついた。背を逸らすように椅子にもたれかかって髪に手をやって雑にとかした。
「重症だねぇ」
「そうかなー」
「重症だよ」
「だよなー」
 あーあ。
 佐々木はわざとらしく言って俺の事を見ないまま頬杖をついた。
「聞かなきゃよかったかな」
「聞いたのはお前」
「そうだけど」
 佐々木が居眠りをするようにテーブルに蹲ると、少しだけ茶色い髪が午後の日差しを受けていつもより明るく光った。
 そういえばこないだ会った彼女は、限りなく金髪に近くなってて驚いたな、と、俺は急に思い出す。色白な彼女に似合ってないわけじゃない、けれど、何故か理由もなくショックを受けたのはなんだったんだろう?
 視線を感じて我に返ると、佐々木が顔を上げてじっと見ていた。
「なんだよ」
「いや別に」
 佐々木は妙に真剣な顔をしていて、俺は変にたじろぐ。
「やっぱりこれが正しかったなーと思って」
「何が?」
「友達」
「は?」
「一年前」

 一年前。俺は佐々木に告白して見事玉砕した。
 佐々木はゆっくりと姿勢を正して、それから伸びをする。
 傍らにあった荷物に手をかけて、椅子を引いて立ち上がる。
 俺は座ったままで佐々木を見上げていた。

 一年前、片思いだったのはやっぱり私のほうだよね?

 さらりと言って、諦めたように穏やかに笑った。俺は笑えなかった。と、いうか、身動きすら出来なかった。
 佐々木は固まっている俺を面白そうに見下ろしていて、尚も動けない俺にもう一度、今度はいつもみたいにからかう様ににやっと笑いかけると、反動つけて荷物を右肩に担いだ。
「じゃ。また後で部活でね」
 俺は返事も出来なくて、彼女は返事を待たずに歩き出した。
 多分、俺のために。
 聞かなきゃよかったかな、といった佐々木が笑ってくれたのだから、俺も笑い返さなければいけなかったのに。
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by ichimen_aozora | 2006-05-03 04:01 | 君の名を
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