2005年 02月 10日 ( 1 )
閉じ込めてしまおう
 僕が欲しいのは、過去だ、と思う。
 僕の知らない、君の、過去のきずあと。

 君が今ここにいる、ということを、どうしようもなく確かめたくて強引に引き寄せる。
 別に躊躇う様子も抗う様子もなくそばに来る君のことが、時々、ひどく疎ましい。
 何も抱えていないような穏やかな笑顔を見せる君が苛立たしい。
 それは過去なのだ、と分かっていても確かめたくなる自分は馬鹿らしい。
 そんなに閉じ込めなくても消えない事は分かっているのに、ぎりぎりと締め上げるように強く抱きしめていた。
 僕の腕の中で君が小さく、痛い、と言う。
 聞こえなかったふりで腕を緩めなければ、君はそれ以上何も言わない。
 いま、何を思っているだろう、思い出しているだろうと考えると僕は、少しだけ狂いそうになった。

 君があいしているのは後にも先にも一人だけなのかもしれない。
 僕はそいつの事を知らない。
 でも君のこころを占めているのは知ってる。
 そいつが出てきたらきっと、君は行ってしまうのだろう。

 彼女を責めるのは、きっと、無茶な事なのだろう。
 僕の事だけを見てと要求するのは、がきっぽい独占欲だろう。
 それはただ、もう過ぎ去った時間なのだと言う事。
 僕に会うよりずっと前に、君がそいつに出会ってしまったということ。
 そしてもう、そいつはいなくて彼女は。
 いつも僕の近くにいるのに。
 彼女を責めるのはきっと、歴史に喧嘩を売ってるようなものだろう。
 分かっている。分かっているけど。
 僕は君のきずあとがほしい。

 どこにも行かないと君は言う。
 どこにも行かないでと僕は願う。
 そして。
 君を連れに来る人はもう来ない。
 来ないと分かっているのに。
 ねぇ、息が苦しいよ。とくぐもった声が聞こえる。
 でも僕は緩めない。
 君が僕の胸を押し返しているのが分かる。
 でも僕は逃がさない。
 君がほんの少しでも見えなくなったら、僕はきっと君を上手く信じられない。
 疑ってるわけじゃないのに、もう片時も安心できない。
 だから。
 君を。
 閉じ込めてしまう。
 もう、僕はどこにもいけない。
 それでもいい。
 永遠と哀しいままでも
 構わない。
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by ichimen_aozora | 2005-02-10 23:14 | ふたり sideB