カテゴリ:ふたり sideA( 23 )
昼下がり
「届くといいな」
「ん?」
「お前の想いが、届くといいな」

 瞳を閉じるのだ。
 太陽が眩しいから。
 太陽みたいな、向日葵が眩しいから。
 いま、風が吹けばいいと思った。
 そして、そう。
 届けばいい。
 あなたに、ただ届けばいいのに。

 いい人そうな顔をして、私をそんな風に遠ざけないで。
 あなたに、幸せを願われたくなんかないの。
 そんな風に、笑って逃げたりしないで。
 傷付ける事は、出来ないなんてただの言い訳。

 向日葵が揺れた。目を閉じても残像が、残りそうで。
 煩わしくて、顔を背けた。
 あなたのことが、残像のように。
 記憶に残る事なんて、分かりきっていて、煩わしくても、なす術が無かった。
 あなたのことを、思い出すのが、向日葵なんかじゃなければいい。
 向日葵なんか。
 夏過ぎて。
 夏過ぎて。
 鮮やか過ぎて。

 春も夏も秋も冬も。
 きっと思い出すよ。
 優しくて卑怯な人だったと、きっと思い出すよ。
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by ichimen_aozora | 2005-07-07 14:28 | ふたり sideA
存在感
「忘れてしまえば?」
 冗談のような言葉が宙に浮いて、すこし恐かった。
 誤魔化したかった内心が浮き出て見えそうで、取り繕うように笑って見せた。
 害のない理解者みたいな顔をして。
 本当は。
 手に入れたいと、思っていたのに。
 君の不幸を、願いたいわけじゃないけど。
 私ならきっと、幸せにするのに。

「忘れちゃいなよ」
 積み重ねた言葉が軽々しく聞こえればいい。
 他人事のように響けばいい。
 君のことなど。
 さほど興味もないように。
 見せかけられたならいい。
 今はまだ。
 今はまだ早いから。
 いつか。
 いつかきっと手に入れるけど。
 
「付き合うからさ。今日は飲もう?」
 安い居酒屋のカウンター
 アルコールは便利だと思う。
 ひどく、安易な口実だと思う。
 それだけで、今しばらく近くにいられるのなら。
 ぬるいビールも、薄いカクテルも
 さして美味しくはないけど。

 薄く科学的な色をしたカクテルの入ったグラスを目の高さまでかかげて、
 からからと揺らした。
 騒がしい居酒屋には不似合いなほど。
 高くて綺麗な音がした。
 俯き加減の君を横目に見ながら、
 頬杖をついてグラスを弄ぶ。
 くるくると回る氷の向こうに君を透かして
 ぼんやり空虚な気分になる。
 君は目を上げないままで
 私はからから鳴らし続けた。
 私の位置を知らせるように、
 君の隣で鳴らし続けた。
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by ichimen_aozora | 2005-03-15 04:20 | ふたり sideA
飽和
 予想よりもずっと
 君の存在感が強く残るので
 私は簡単に飽和して
 何も手につかなくなってしまう
 一緒にいた時間は他愛なくてずっと
 くだらない話ばかりしていたのに今
 ただそばにいた時間の余韻の中で
 私は無防備に揺れ続けていた
 あんまり強く残るので
 なんだか壊れてしまいそうだ
 私の小さなこころが飽和して
 突き抜けて暴走してしまいそう
 壊れてしまえるならきっと楽かしら
 壊れてしまうなら君は駆けつけてくれるかしら
 一緒にいる時間は淡々と過ぎるのに今
 ひとり思い出している私はとても揺れていた
 幸せの時間のさなかはとても静かだったのに
 幸せの時間の余韻はひどく鮮烈だった
 君は今
 確かに私の中にいて
 どこかとても核心的な部分で
 大きく鐘を打ち鳴らす
 姿も見えず
 手も届かず
 声も聞こえないままでただ君は
 強く存在を主張する
 目を閉じて
 蹲って
 耳を塞いでみても
 私の想いは膨れていって
 もうすぐ壊れてしまいそうなのに
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by ichimen_aozora | 2005-03-02 04:19 | ふたり sideA
手に入れたもの
付き合ってもうだいぶ経つから、とか、それ以前にもう何年も友達だったから、とか、きっとそんな理由からではないけれど。
あんまり電話はしない。
別に、不満はない。

ずっと前から友達だった、という風に、人には説明するようにしている。
ずっと前って、それはもう本当にかなり前だけれども、別に生まれたときから隣にいたとか言う関係ではなくて、要するに、幼馴染と言えるのかどうかの境界が分からなくてそう言うことにしている。
どちらかというと、幼馴染にはなりたくないと思う。何となく。
腐れ縁、というほど縁があるわけでもないと思う。
ここまで長い付き合いなのは、双方の努力の結果だ、きっと。無意識だったにしても。
だから友達でいい、と思う。
友達だった、でいいと思う。

友達同士、の二人が付き合うに当たってはかなりの労力と思い切りを要する、ということを私は学んだ。
近くも遠くもない関係はぬるま湯のように優しく柔らかく居心地が良くて、わざわざ波立たせるなんて馬鹿馬鹿しい気がしてしまったり。
このままでいいじゃないかと、まぁ数え切れないくらいは考えた。
このままじゃいられなかったから付き合ったようなもので。

緩く優しい距離感の中で、私たちにはほとんどの事が許されていたけれど。
手は繋げなかった。それからキスも。
相手が目の前で泣いていても、見守る事しかできなかった。
引き寄せる事は出来ずに。
もう少し、あと一歩、近づきたいと思ってしまったらもう。
その安全な場所にはいられずに。
よく慣れた存在感、それだけでは。
物足りなくて、もっと直接的な。
熱が欲しかった。
例えば涙で濡れた頬をかばうように、包んでくれる掌の熱。

それが欲しかった。
そしてそれ以上は。
特に求めはしなかった。

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by ichimen_aozora | 2005-02-22 23:53 | ふたり sideA
接点
 もう寝ようと思って電気を消した部屋の中で、微かな震動音が響いてディスプレイが光った。
 手を伸ばして二つ折りの携帯を取って、そのまま片手でぱかりと開くと、闇に慣れ始めていた目に画面の明かりがひどく眩しかった。
 送信者を見て、少しだけ躊躇する。
 今日は、バイトの歓迎会だかサークルの飲み会だか何だかで、会えないんじゃかたったっけ。電話も無理なんじゃなかったっけ。
 本当は、私との先約があったのに。
 どうしても抜けられないからとか言って行っちゃったんだ。
 だいたい何の飲み会だったんだろう。ほんとは合コンとかだったりするのかな。
 疑い出せばきりがないので、いつも考えないようにしている。
 全てを、知ることなんて所詮無理なんだ。
 だから聞かない。私も言わない。
 些細な秘密を持ち合ってそれでも、私達は上手く成り立っている、と、思う。

 少しずつ眠気が忍び寄ってくる頭を無理に切り替えて本文を開く。そこには、今日の飲み会の事やら、約束破ってごめんなんてなんて事にはひとっつも触れてなくて、たった一行。

   あしたはひま?

 全部ひらがなの短い文章がばかっぽい。けど、これは彼がばかだからと言うより、向こうも相当眠いからなんだろう。飲み会終わったのかな。帰る途中なのかな。
 そう思ってちょっと笑った。
 まぁいいか。
 ほんとうは。気にならないわけでもないけれど。
 ドタキャンされて多少気分が、ささくれていたりもしたけれど。
 まぁいいか。一応メールくれたから。
 なんとなく顔が緩んで、ついでに眠気が増してくる。
 明日は暇だって、返事を…返事をしなくっちゃ…と思うけれども、引きずり込まれるように意識が薄くなる。

   ねむい……

 だいたい、こんな時間に送ってくるのがいけないんだよな…それにもう日付越えてるから今日じゃないか…
 夢か現かの瀬戸際でそんなことを考えていたら、もう一度手元で携帯が震えた。
 ああこれはきっと、明日どうする?とか。時間とか。そういうメールだきっと…
 でもいいかもう。明日で。だってすごい眠いもの…

 まだ何も決まってないけれど。
 きっと明日は君に会える。
 何の計画もないけれど、でもそれだけで十分だ…

 沈むように途切れた意識の先の眠りは、ひどく暖かで柔らかかった。
 明日は君に会える。
 今は一人で今夜は淋しくても。
 何でこんなに急速に眠くなったのか、本当は分かる気がする。
 安心したんだ。
 私、ちょっと何かがこわかったかな。
 だけどほんの少しだけまだ癪だから、そんなことは教えてあげない。
 まぁいいや。
 とにかく明日は君に会えるだろう。
 それだけで過不足なく満ち足りて、私はあっさりと眠りに落ちた。
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by ichimen_aozora | 2005-02-05 03:36 | ふたり sideA
バームクーヘン
 バームクーヘンを見ると、バームクーヘンを丸齧りしたいといっていた人のことを思い出す。そんなときしか思い出さないのに、それでも忘れてはいないんだ、ということに、微かに動揺する。
 不思議。
 ただ。
 バームクーヘンが食べたいって言ってただけなのに。

 あんまり何度も言うので、じゃぁ一度齧ってみれば、と言ったときには私たちはまだ高校生で、それもお金のない高校生で、切り分けられたものはともかく、丸い形をしたバームクーヘンは私たちには、随分と、高価だった。
 もっとも、本当に丸ごとのバームクーヘンというのはもっとずっとずーっと大きいものなんだ、ということは、全然知らなかった。
 バームクーヘンは、丸くて、真ん中に穴が開いていて、幾つもの層になっていて、駅前の洋菓子屋のウィンドウに入っていた。
 育ち盛りだったらしい彼は呆れるほどいつもおなかがすいていて、その店の前を通りかかるといつだって、丸齧ってみたいと言った。
 甘いものがさほど好きではない私は想像だけで胸焼けがしそうだと思っていたけれど、彼にとってその望みは本物らしかったので、バレンタインにはケーキを焼いた。
 さすがにバームクーヘンの作り方は分からなかったので、真ん中にバナナを入れた巨大なロールケーキを焼いて、綺麗な紙に包んであげた。
 丸齧っても良いよ、バームクーヘンじゃないけど、と言ったら彼は、随分と嬉しそうな顔をしたんだ。
 ほんとに?全部食べちゃうよ?と、寒い公園のベンチで包みを開けながら彼は言って、良いよ、と答えたらもう一度嬉しそうに笑った。

 今ならもう、丸いままのバームクーヘンは買える。別に、さほど裕福になったわけではないけれど。
 私は今も甘いものが苦手で、バームクーヘンを丸齧りしたいなんて思わないけれど。どうしても、見るたびに、何故なんだかあの人の事を思い出す。
 夢は叶っただろうか。随分と、ささやかで食い意地の張った夢だったけれど。
 夢は叶っただろうか。
 今ならバレンタインに、買って贈ってあげられるのにな。いいよ、丸齧りして、って、言えるのにな。
 それとも今年辺り、誰かにもらうだろうか。そんな、ちょっとばかばかしいような昔の夢を、知っている人がいるだろうか。私以外にも。
 それとももう、彼も忘れてしまっただろうか。そんなことを、いつも言っていた頃のことなんて。
 今ならきっと、もっと美味しいケーキだって焼けるんだけどな、と思って、ちょっと笑った。
 いつまで私はこうして、ふいに思い出したりするんだろう。
 いつまでもきえなかったらそれはそれでちょっと困るな、と思って、目を細めた。
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by ichimen_aozora | 2005-02-02 12:25 | ふたり sideA
夜明け前
伝えたい事はたくさんあって。伝えようと思っていたこともたくさんあって。
明日会ったら、きっと君に話そうと思うのにいつも。
いつもいつも忘れてしまう。
例えばどれだけ切実かって。どれほどきりきりと朝を待つかって。
ずっと君に伝えようと思うのに。いつも。
君がいる時間は柔らかで、だから今はただ、愉しげに笑っていればそれでいいかと思ってしまう。
他愛無い日常と、軽い会話でただ時間だけが過ぎていってそれでいつも、日が暮れてしまうけれど、それでも、それだけでいいような気がしてしまう。
私がいつも。部屋で一人で。
だからどれだけ切実かって。
きっと君は知らないだろう。
こんなに苦しくて。こんなに切実で。
きっと一人閉じ込めておくなんてできないと思うのに、すっと。
君がいる時間は穏やかで軽やかでなにか、すべて、透明に消えてしまっていつも。
一杯に抱えていた言葉が見つからなくて、私は笑っている。
ああほんとうは。こんなに情熱的な言葉だって用意してたのに。
きっと君に、目一杯ぶつけてみたいって思ってるのに。
いつも何もいえない。
君の答えも聞けない。
だからいつまでも、一人の夜は不安で。
朝を待って。
そして忘れて。
いつまでも切ない。
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by ichimen_aozora | 2005-01-19 01:05 | ふたり sideA
理由
 嫌いじゃないという理由で、誰かと付き合える時期は終わったのだろうか。
 嫌いじゃないという理由では、君とは一緒にいられない。

 真っ直ぐな目が少し眇められて怖くなる。にっこりと笑い返せばいいじゃないかと分かっているのに上手く出来ない。
 何故か、射すくめられた様に身動きが出来ない。
 いつもみたいに、軽々と振舞えばいい。
 笑って上手く答えればいい。
 簡単じゃないか。いつだって簡単だった。
 誰かと付き合うことなんて、誰かを好きになるよりずっと簡単だ。
 付き合おうって言えばいい。それで全てが上手くいくだなんて思わないけど。
 この滞った時間は流れ出すだろう。今は、動き出すだろう。
 先のことなんて知らない。見えないものを、私は上手く望めない。

 嫌いじゃない。他に付き合っている人はいない。好きな人はいない。好きな人なんてずっといない。だからそれでいいだろう?裏切った事にはならないだろう?
 肯定すればいい。そして、好きだよと言えばいいのに。
 
 誤魔化してはいけないのだ、と、どこかが警告している。
 君だけは、今だけは、誤魔化したらそれで全て壊れてしまうんだと。
 ちかちかと点滅するように、何かが神経に触れる。
 いま、何かが、確かに。
 変ろうとしている。そんな気がする。
 この手を取ったらきっと。
 今までみたいには行かないんだ。
 
 ああ、やっぱり。嫌いじゃないという理由だけで君とは行けない。
 この手は取れない。
 今はまだ。
 もう少し。今しばらく。
 ずっと、ぬるま湯のように穏やかで安らかで無為だった日々。
 揺れない、動かない、滞ったように静かで安全な日々。
 決別するように。
 もう少し。あと少し。
 まだ私には、覚悟が足りない。
 もう少し。もう少しだけ時間を下さい。
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by ichimen_aozora | 2005-01-13 01:47 | ふたり sideA
誓い
 何も、何もないのだ。
 私たちには何も。
 二人を繋ぐようなものなんて何もない。
 共有する時間も空間も、
 思い出も話題すらなくてただ
 重ねた手が同じ温度に溶けて、それだけを
 手繰るように握りしめている。
 なんて儚くて後ろ盾のない
 過去も未来もない今だろう
 その今を守るために払う犠牲は小さくなくても
 この手が冷えてしまったらもう
 私はきっと歩けない
 君が未来を連れてきてくれるわけでもないのに
 この手はきっとはなせない。
 きっとまだ。
 きっと、ずっと。
 この先に何もなくても
 振り向いて縋る思い出もなくても
 俯きがちに歩き続ける
 二人、ただ手を繋いで。
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by ichimen_aozora | 2005-01-08 05:12 | ふたり sideA
幸せな日々
 とても、いい人なんだとわかっていた。
 いつだって君はとても優しくて。
 自分が大事にされていると分かっていた。
 不満なんて、何もなくて
 このままきっと何事もないまま
 君は幸せにしてくれるだろう。
 分かってるんだ。だけど。
 このままではいられない。

 傷付けたくないなんて、傲慢で勝手な思い上がりなんだろう。
 それでも傷付けたくないと思う。
 ただ逃げたいだけだろうか。
 言わなければきっと平和なままで、このままずっと続いていくだろう
 それは暖かくて幸せそうな日々で
 何より楽な選択だけれど。
 
 嫌いになったわけじゃない
 だけど気付いてしまったんだ。
 好きじゃなかったわけじゃないけど
 それだけだったと気付いてしまった。
 君には何の非もなくて
 ただの私の身勝手で
 それで君をただ傷付けて
 最低な女だと思う。
 思うけど
 それでも戻れないんだ。
 

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by ichimen_aozora | 2005-01-05 03:59 | ふたり sideA