カテゴリ:ひとり( 28 )
貝殻公園
 目の前で雨が降るから
 二人くっついたまま待っていたんだ
 濡れていく自転車と
 赤い滑り台をずっと見ていた
 雨が降るから帰れないから
 いつまでも
 止まなければいいと願った
 遠い遠い日にここで
 
 日々は驚くほど早く回るから
 思い出す暇もないけれど
 わき目もふらずに早足で歩く
 そんな日々にも慣れてしまった
 そんな毎日を受け止めている
 そんな毎日を、懸命に駆けて行くけれど
 時々ふいに湧き上がるように
 蘇ったりするのです
 自転車をこぐ君の背中や
 並んで走り抜けた夕暮れの街
 帰りたくなくて数えた一番星や
 小さな公園の片隅のベンチ
 
 大きな木の下で
 閉じ込められたような気分
 濡れていく自転車と
 貝殻の形の赤い滑り台
 とても静かだったので
 疲れているのだと気付いてしまった
 苦笑いして目を閉じる
 想い出に縋るつもりはないけれど

 音もなく雨が降るので
 もうしばらくはここにいよう
 冷たい雨が止まないので
 もう少しだけここにいよう
 いくら待っても
 君は来ないと知っているけど
 目を開いても
 君はいないと知っているけど
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by ichimen_aozora | 2004-11-13 01:59 | ひとり
放課後
 職員室から部室に向かう途中に3-5の教室はあって、俺はいつものように無意識に中を覗き込んだ。扉は半分ほど開いていて、電気は消えていて、教室は橙色に沈んでいた。
 ふと目の端を何かが掠めたので何気なく追うと、グラウンドに面した窓の端一つだけが開いていて、カーテンがゆらりと翻った。
 彼女が開いた窓に凭れるように立っている。
 ああ、まただ。扉が開いていたから、いるかもしれないとは思っていた。
 後姿で顔は見えないけれど、あれは絶対に彼女だ。
 
 部長の俺はいつも部活の後、職員室に倉庫の鍵を返さなければならなくて、だから毎日同じ時間に教室の前を通り過ぎる。そして、度々、彼女の後姿を見かける。
 グラウンド側の窓の一番左。グラウンドはよく見えて、グラウンドからは死角になる場所だと、彼女も春まではグラウンドにいたから知っていたんだろう。
 3-5は俺の教室。そして彼女の教室。

 

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by ichimen_aozora | 2004-11-11 07:12 | ひとり
在り処
さざ波だっていく内心
原因不明の焦燥感
息苦しくて
目を閉じても
日常の気配すら妙に生々しくて
苛立って唇をかむ

条件反射の感受性
打ち返すことも出来なくて
震えるだけの精神を
制御できないままの未熟さ

鈍って欲しい
どうか
休ませて欲しい
せめて
眠らせて欲しい

痛みを求める自分も知っているけど
それでも刃物は絶対持たない
傷は作らない
かわりにきつく手を握る
誰もが持っている衝動を、握りつぶして飼い慣らすだけ
手の平に食い込んだ爪跡が
ゆっくりと薄れていくのを
見送ってから目を閉じる

時間が経てば
今が過ぎれば
この衝動も
この苛立ちも
まるで跡形もなく
そして平らかな日々
これは経験則
そして繰り返す事
明日には忘れてしまうだろうけど

きつく握った手の平を
開いてそして、また握った
鈍く小さな痛みとともに
この手の平に刻み付ける。

自分の中にある激情
明るいばかりでない側面を
見据えて決して目を離すまい
無くなるわけもない
逃げるわけにはいかない
呑まれるわけにはいかないんだ
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by ichimen_aozora | 2004-11-09 04:35 | ひとり
教室
 かたり、と音がしたので右隣を見やると、彼女はもう机にうつ伏していた。机の真ん中に積み重ねた辞書と教科書を囲うように腕を組んで、その上に顔を伏せて。
 左の横顔が、半分ぐらい見える。
 癖なのだろう。彼女はいつも、少しこっちを向いて眠る。

 彼女は何故だか本当によく眠る人で、クラスでも有名だった。かといっていわゆる不真面目な生徒ではなくて、成績は優秀な方で、部活は陸上。
 夏場は日に焼けているけど、元々はとても色白なのだろう。今、垣間見えている横顔と首筋が不思議なほど白い。
 そして、頬だけが透ける様に赤かった。

 僕はいつも起こさない。
 起こしてしまったら、こんな風には見ていられない。

 僕と彼女の関係はひどく薄くて、しかもとても儚かった。登校してきた彼女が「おはよう」と言って、僕も「おはよう」と返す。それ以上も以下もない関係。
 そのうち、席替えなんて、誰かの気まぐれで唐突に実行されるのだ。
 そうしたら僕は彼女の横顔をもう見られないし、「おはよう」さえめったに言えなくなるのかもしれない。
 彼女は次に隣に座る奴に声をかけて、そいつはやっぱり僕と同じように、彼女の横顔を見つめるかもしれない。

 僕は、きっと、遠く離れてしまう。きっとずっと離れてしまうのだ。今よりも、ずっと。

 彼女は相変わらず、すやすやと眠るだけだろうけど。


 

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by ichimen_aozora | 2004-11-04 03:47 | ひとり
残響
飛び越えようとした全てに、もつれて倒れこんでいた私を

掬い上げようとしたひとことがある。

今の全てを支えているのも、

一番下ではその言葉
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by ichimen_aozora | 2004-11-01 01:06 | ひとり
親愛なる…
 すれ違っていく。
 その実感を。
 今でも生々しく、僕は覚えている。

 乗った波が違ったんだ。
 抗えない、
 強引でしかも魅力的な
 そんな双方向の力だった。
 二人をそれぞれに取り巻いた新しい環境が
 どれほど鮮やかで
 どれほど入り乱れていたか。
 僕はきっと、今でも敵わない。

 僕たちは若くて。
 浅はかで軽率で真剣だった。
 僕たちは迷ってしまったんだ。
 全てを。
 全 てをまともに受け止めるには
 余りにも些細な自分だったのに。
 僕たちは欲張りで
 優先順位なんて分からなかった。
 全てを望めば。そしてそのための努力を惜しまないならば。
 きっと手に入ると信じていたんだ。

 簡単に、壊れるような
 絆を持った憶えもなくて。
 この約束が、永遠に
 色を失うはずもないと。

 呆れるほど透きとおっていた想いが
 今では少し、苦しいけれど。

 君は元気にしているだろうか。
 相変わらず無理をしているようだと、噂に聞いたけれど。
 僕は今も故郷の街で
 あの頃君に話した夢の
 スタート地点に立ったりしている。
 君が遠くの街に行ったこと
 君の選択を、今も、最善だったと思っている。
 君の、真っ直ぐに未来を見据えた強い瞳を
 僕は今でも眩しく思う。

 新しい彼氏は出来たかい?
 優しくしてくれる人を選んで欲しい。
 君が幸せであればいいと
 その願いには自信がある。
 一生変わらない自信があるよ。
 だって君もそうだろう?
 君もきっと、そう願ってくれているだろう?
 もうそれだけしかないけれど
 それだけは変らないと君に誓える。

 あの頃、変ってしまうことが、自分たちが変っていく実感が
 とてもとても怖かったけれど。
 いつまでも、と身を切るように、同じ場所にいたかったけれど。
 なぁ。でも。僕たちは。
 あの頃よりは成長したよな。
 君だってもう、制服のスカーフよりは、
 綺麗なネックレスが似合うだろう?


 僕たちは変化する。それが僕たちの可能性。
 淋しくても切なくても遣る瀬無くても。
 強かにしなやかに伸び上がるように。
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by ichimen_aozora | 2004-10-29 07:49 | ひとり
五月
疾走するは、未完のこころ。
届けばいいと、願った言葉。
欠けたままの、私の中で、走り出すのは、拙い想い。
欠けたままの、私のこころを、どうか、どうか、否定しないで。

思い出すのは、あの日のひかり。
青かった空と、吹きぬけた風。
遠くに見えた、海に向かって、泣けもしなかった、明るい午後。
眩しすぎてずっと、影を探した。
隠れてしまいたいと、ずっと思ってた。

今なら、こんなに、泣けるのに。
素直な態度は、無理してでも作るものだと、知ったのはずっと、ずっと、後だったんだ。

会いたいと、こころから。
こころから。会いたいと。
願い続けて、でも決して、叶わなければいい。
叶わなければ。
いつまでも、いつまでも、私はここにいられるでしょう
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by ichimen_aozora | 2004-10-11 04:43 | ひとり
黄昏
 夕焼けの一瞬前の
 暖かな光が差し込んできて
 何だか満たされたような気になって
 部屋の真ん中で膝を抱えた。

 とても静かで
 右から差し込む黄色い光が
 私を照らして
 何だかひどく、平穏だった。
 
 ここは一人で。
 私はきっと一人だけれど。

 夏が終わって秋が来て。
 人恋しいとかいうけれど。
 秋には悲恋の記憶もなくて
 鮮明すぎる残像もなくて。

 空は高くて淡かった。
 際立つ影ももう見えない。

 私はきっと、きっと一人で
 膝を抱えて蹲る。
 哀しくもなくて
 ただ驚くほどの完成形だった一瞬に
 囚われてしまおうかと思っていた。
 この平穏な季節の中に
 ずっと蹲っていようかと思っていた。





 
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by ichimen_aozora | 2004-10-08 05:45 | ひとり
強気
人は誰も

想い出には追いつけないわ

誰も

自分自身も
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by ichimen_aozora | 2004-10-06 22:54 | ひとり
独り
いつだって
曖昧にわらって揺れていた。
噛み締めた奥歯から
言葉が溢れないように俯いた。
加熱した感情が
涙にかわらないうちに
まばたきをして目をそらす。

揺らいだままの 自分のような
中心は 空洞のままだった。

確かな何か 信念を
もし持ってなどしまったら
今度こそ簡単に
壊れてしまいそうで。

いつだって いつだって
傾きながら ぐるぐる回る。
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by ichimen_aozora | 2004-10-04 18:10 | ひとり