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告白 sideB
 好きより上って何かな、と呟いた僕に君は、分からない、と小さくこたえた。
 分からないわけないだろう?これほどありふれた言葉なのに、と思ったけれど、君が俯いてしまったから、僕は黙って抱きしめていた。
 ふわふわしたセータの向こうに、君の温度が腕に伝わって、僕はようやくほんの少し安心する。
 冬はいい。寒がりな君を、暖めるという口実があるから。
 僕は君を抱きしめている。
 消えてなくなってしまわないように。

 本当に、君がいなくなってしまったら、僕はどうしてしまうのだろう。
 想像できなくて、怖くなって目を閉じた。
 いつだって、未来は不確かなのに。
 可能性は0ではないのに。
 僕は、ありえなくはない未来が、存在する事に怯えている。
 そんなあてのない不安が、僕をゆるゆると取り巻いている。
 初めてなんだ。
 こんなに。甘く甘く幸せな日々は。
 甘く幸せで寄る辺ない日々。

 好きなところもその訳も、もう僕には分からない。
 君がいなかった日々はすぐそこなのに、何をしていたか分からないんだ。
 例えば去年の今頃僕は、一人で何をしていただろう。
 君がいなくて、僕は、君の手の冷たさも知らないで、僕は、きっと。
 ただ呆然と生きていたのかな。
 毎日を。
 淡々と巡るように。

 僕はもう戻れない。
 この極彩色の平凡な日常を
 君がひろげて見せたから。
 僕はもうあのモノクロな日々には
 どうしたって戻れないんだ。
 君が見せた鮮やかな景色を
 僕は決して忘れられない。
 未来はままならなくても
 可能性を否定できなくても。

 背中まで落ちた君の綺麗な髪に紛らすように。
 あいしているよと呟いた。
 生まれて初めてのその言葉が
 例え君に届かなくても。
 例え君が認めなくても。
 僕だけは目をそらすまい。
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by ichimen_aozora | 2004-11-30 03:41 | ふたり sideB
量れずに
なんだか果てがない気がして怖くなる
何か陥ったものの深さを知る
上手く回避してきたはずなのに今

伝える事も偽る事も簡単な
言葉の不確かさの狭間で揺れる
怖いのは
あなたが私ではないと言うこと
所詮他人の距離に溺れて
私は沈んでしまわないかな
所詮他人のあなたが遠くて
いっそ透明になって漂っていたいと思った
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by ichimen_aozora | 2004-11-26 02:17 | ふたり sideA
選択肢
 冷たい雨ばかり降っていた
 ガラス越しに煙る灰色の空
 濡れてみるのもいいかもな
 冷たく冷たくなったなら
 溶けてなくなってしまえるだろうか
 やけに派手で強いネオンが
 雨に滲んで
 点滅して消えて束の間の夕闇
 そしてまた点滅
 
 これでまた君を傷つけるだろうと
 分かっていたけど目をそらした
 私はとても
 とても疲れて
 ひどく寒くて
 君が優しいのを知っていたんだ
 
 確かなことなど
 一つもないと分かっていた
 この想いも約束も
 存在も記憶もすべてすべて
 変らないものなど何もないのに
 不確かな自分を支えきれずに

 鈍感なふりをして
 誰でもいいのだと言い訳しながら
 本当は君を探していたかな
 探していたのは許された場所
 寄りかかってしまいたかった
 君の背中に額をつけて
 一瞬目を閉じて休みたかった
 そしてすぐに遠ざかりたかった

 身勝手な言い訳に過ぎないけれど
 正しく安定した距離や未来が
 今はまだひどく怖かったんだ
 また壊れてしまうなら
 揺らいだままで構わないのに


 暖かかった君の手を
 初めから振り切って逃げ切るつもりで
 実際少しも動けないで
 途方に暮れて佇んでいた
 冷たい雨に髪が濡れても
 現実は何も滲むこともなく
 明確な輪郭を保って
 決断を迫っていた
 雨の中で
 濡れたままで
 今度この手を振り切ったなら
 今度こそ
 もう二度と捕まえる事は出来ないのだと
 分かってしまって動けなかった
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by ichimen_aozora | 2004-11-22 03:24 | ふたり sideA
翻る
彼女は表情豊かで、笑顔が上手な人だと思う。
どれが作られたものなのかは、きっと俺には一生分からない。

目が合って、一瞬の間の後に、まるで翻るように笑顔になるから、一瞬前の表情がどうしても記憶に残らない。真っ直ぐな視線が妙に透明で強かった気がするけど、目の前の彼女が余りにも穏やかに笑うから、勘違いなんだろうかと思う。
でも。確かに。
無表情と言うには強すぎる視線だった。
でも何の感情も読めなかった。ただただ真っ直ぐ透明で。
今、この瞬間を、正しく写しているようだった。
歪みも嘘も重ねないまま。

きっとぼんやりなどしてはいないのだろう。
本当は。
この笑顔は隠す為のものなのだろうか?

丸っこい顔に少したれた目。小さな鼻と口に、茶色いふわふわした髪。
彼女は反射のように完全に穏やかに笑い、尖ったところなどどこにもないけれど。

残像だけが掠める。
捕まえたい、と思う。
一瞬の間に、彼女が隠れてしまう前に。
この手で。そして。
大丈夫なんだよと、言ってみたいんだ。
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by ichimen_aozora | 2004-11-20 06:20 | ふたり sideB
雨の中
 雨の中で震えていた、誰かを思って無口だった君を、強引に引き寄せた事を、俺は後悔していない。
 きつい事を言って追い詰めて、泣かせた挙句、頷かせた事も。
 俺はひどい奴だったかな。
 乱暴な奴だと思われたかな。
 別に今更、多少の事では揺らがないけど。
 ただ俺は、君のことがとても大事で。
 だからいつまでも、そんな寒い場所にいて欲しくなかった。
 引きずってでも連れ出して、世界を見回して欲しかったんだ。

 だからそろそろ視線を上げて。
 君が思うよりはもう少し、世界は無防備に開けているんだ。
 前も後ろもないんだよ。
 君が踏み出すのならそれでいい。 
 俺ならきっと、どこにでもついて行くよ。
 君を一人にはしないから。
 この手をとって欲しいんだ。

 今はまだ。一番でなくても構わない。
 君が誰を想っていても。
 君が近くいればそれで。
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by ichimen_aozora | 2004-11-16 02:47 | ふたり sideB
指針
 斜めに切り取られて歪んだ空が
 ビルの隙間からとても青くて
 そうだ、久しく見上げる事すらしなかったのだと思い出した
 都会の空気は汚れていると聞くけれど
 僕もだいぶ馴染んでしまった
 海も山も空も見えない街でも
 僕はそれなりに元気にしている

 故郷を捨てたつもりはないけれど
 もう戻れないのかもしれないな
 卒業したら帰ると言って出てきたけれど
 あんな完璧な静寂と暗闇の中で
 僕はもう眠れないかもしれない
 狭くて暖かくて優しくて近すぎる関係の中に
 きっともう居場所が探せない

 都会に憧れて飛び出したわけでもないけれど
 こんな場所だとは予想もつかないでいた
 故郷はいいところだと人には言えるけれど
 僕は喧騒と雑踏の中で
 孤独と自由を知ってしまった
 生まれ育ったあのまちを
 淋しいとすら思ってしまうんだ

 懐かしくないわけもない
 置いてきた人もいる
 親しかった友人も
 まるで健やかだった子ども時代も
 あの場所には全てがあるけど
 消えないままに残っているけど

 水平線はもう見えない
 海に溶ける朝焼けも
 青空に映えた緑濃い山も

 それでも決して忘れないだろう

 色鮮やかな記憶を胸に
 ざわめきの中に踏み出していく
 無数の人ごみの中で
 僕が紛れて消えてしまわないように

 色鮮やかな記憶を胸に
 コンクリートの狭間を抜ける
 モノクロの視界の中で
 僕を見失ってしまわないように
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by ichimen_aozora | 2004-11-14 04:19 | ひとり
貝殻公園
 目の前で雨が降るから
 二人くっついたまま待っていたんだ
 濡れていく自転車と
 赤い滑り台をずっと見ていた
 雨が降るから帰れないから
 いつまでも
 止まなければいいと願った
 遠い遠い日にここで
 
 日々は驚くほど早く回るから
 思い出す暇もないけれど
 わき目もふらずに早足で歩く
 そんな日々にも慣れてしまった
 そんな毎日を受け止めている
 そんな毎日を、懸命に駆けて行くけれど
 時々ふいに湧き上がるように
 蘇ったりするのです
 自転車をこぐ君の背中や
 並んで走り抜けた夕暮れの街
 帰りたくなくて数えた一番星や
 小さな公園の片隅のベンチ
 
 大きな木の下で
 閉じ込められたような気分
 濡れていく自転車と
 貝殻の形の赤い滑り台
 とても静かだったので
 疲れているのだと気付いてしまった
 苦笑いして目を閉じる
 想い出に縋るつもりはないけれど

 音もなく雨が降るので
 もうしばらくはここにいよう
 冷たい雨が止まないので
 もう少しだけここにいよう
 いくら待っても
 君は来ないと知っているけど
 目を開いても
 君はいないと知っているけど
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by ichimen_aozora | 2004-11-13 01:59 | ひとり
放課後
 職員室から部室に向かう途中に3-5の教室はあって、俺はいつものように無意識に中を覗き込んだ。扉は半分ほど開いていて、電気は消えていて、教室は橙色に沈んでいた。
 ふと目の端を何かが掠めたので何気なく追うと、グラウンドに面した窓の端一つだけが開いていて、カーテンがゆらりと翻った。
 彼女が開いた窓に凭れるように立っている。
 ああ、まただ。扉が開いていたから、いるかもしれないとは思っていた。
 後姿で顔は見えないけれど、あれは絶対に彼女だ。
 
 部長の俺はいつも部活の後、職員室に倉庫の鍵を返さなければならなくて、だから毎日同じ時間に教室の前を通り過ぎる。そして、度々、彼女の後姿を見かける。
 グラウンド側の窓の一番左。グラウンドはよく見えて、グラウンドからは死角になる場所だと、彼女も春まではグラウンドにいたから知っていたんだろう。
 3-5は俺の教室。そして彼女の教室。

 

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by ichimen_aozora | 2004-11-11 07:12 | ひとり
在り処
さざ波だっていく内心
原因不明の焦燥感
息苦しくて
目を閉じても
日常の気配すら妙に生々しくて
苛立って唇をかむ

条件反射の感受性
打ち返すことも出来なくて
震えるだけの精神を
制御できないままの未熟さ

鈍って欲しい
どうか
休ませて欲しい
せめて
眠らせて欲しい

痛みを求める自分も知っているけど
それでも刃物は絶対持たない
傷は作らない
かわりにきつく手を握る
誰もが持っている衝動を、握りつぶして飼い慣らすだけ
手の平に食い込んだ爪跡が
ゆっくりと薄れていくのを
見送ってから目を閉じる

時間が経てば
今が過ぎれば
この衝動も
この苛立ちも
まるで跡形もなく
そして平らかな日々
これは経験則
そして繰り返す事
明日には忘れてしまうだろうけど

きつく握った手の平を
開いてそして、また握った
鈍く小さな痛みとともに
この手の平に刻み付ける。

自分の中にある激情
明るいばかりでない側面を
見据えて決して目を離すまい
無くなるわけもない
逃げるわけにはいかない
呑まれるわけにはいかないんだ
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by ichimen_aozora | 2004-11-09 04:35 | ひとり
教室
 かたり、と音がしたので右隣を見やると、彼女はもう机にうつ伏していた。机の真ん中に積み重ねた辞書と教科書を囲うように腕を組んで、その上に顔を伏せて。
 左の横顔が、半分ぐらい見える。
 癖なのだろう。彼女はいつも、少しこっちを向いて眠る。

 彼女は何故だか本当によく眠る人で、クラスでも有名だった。かといっていわゆる不真面目な生徒ではなくて、成績は優秀な方で、部活は陸上。
 夏場は日に焼けているけど、元々はとても色白なのだろう。今、垣間見えている横顔と首筋が不思議なほど白い。
 そして、頬だけが透ける様に赤かった。

 僕はいつも起こさない。
 起こしてしまったら、こんな風には見ていられない。

 僕と彼女の関係はひどく薄くて、しかもとても儚かった。登校してきた彼女が「おはよう」と言って、僕も「おはよう」と返す。それ以上も以下もない関係。
 そのうち、席替えなんて、誰かの気まぐれで唐突に実行されるのだ。
 そうしたら僕は彼女の横顔をもう見られないし、「おはよう」さえめったに言えなくなるのかもしれない。
 彼女は次に隣に座る奴に声をかけて、そいつはやっぱり僕と同じように、彼女の横顔を見つめるかもしれない。

 僕は、きっと、遠く離れてしまう。きっとずっと離れてしまうのだ。今よりも、ずっと。

 彼女は相変わらず、すやすやと眠るだけだろうけど。


 

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by ichimen_aozora | 2004-11-04 03:47 | ひとり