<   2005年 03月 ( 3 )   > この月の画像一覧
行方
 ずっと遠くで、君の名を呼ぶ声がする。
 目を上げても、君の姿は見えないけれど。
 僕たちが見失った何かを、君はもう一度見つけただろうか。
 ずっと遠くで、微かに。
 でも確かに呼ばれる君の名を。
 僕はひっそりと聞いていた。
 僕がなくした物を手に入れた誰かを。
 見も知らぬ誰かを。
 想像も出来ないままで。
 泣ければいいのにと思って目を閉じた。
 辛くても、涙は出ない。
 切なくても、手は伸ばせない。
 小さく震えていても、もう君は来てくれなくて。
 僕たちが見失ったささやかな未来を。
 君は誰と。
 行くのだろう。
[PR]
by ichimen_aozora | 2005-03-26 06:06 | ふたり sideB
存在感
「忘れてしまえば?」
 冗談のような言葉が宙に浮いて、すこし恐かった。
 誤魔化したかった内心が浮き出て見えそうで、取り繕うように笑って見せた。
 害のない理解者みたいな顔をして。
 本当は。
 手に入れたいと、思っていたのに。
 君の不幸を、願いたいわけじゃないけど。
 私ならきっと、幸せにするのに。

「忘れちゃいなよ」
 積み重ねた言葉が軽々しく聞こえればいい。
 他人事のように響けばいい。
 君のことなど。
 さほど興味もないように。
 見せかけられたならいい。
 今はまだ。
 今はまだ早いから。
 いつか。
 いつかきっと手に入れるけど。
 
「付き合うからさ。今日は飲もう?」
 安い居酒屋のカウンター
 アルコールは便利だと思う。
 ひどく、安易な口実だと思う。
 それだけで、今しばらく近くにいられるのなら。
 ぬるいビールも、薄いカクテルも
 さして美味しくはないけど。

 薄く科学的な色をしたカクテルの入ったグラスを目の高さまでかかげて、
 からからと揺らした。
 騒がしい居酒屋には不似合いなほど。
 高くて綺麗な音がした。
 俯き加減の君を横目に見ながら、
 頬杖をついてグラスを弄ぶ。
 くるくると回る氷の向こうに君を透かして
 ぼんやり空虚な気分になる。
 君は目を上げないままで
 私はからから鳴らし続けた。
 私の位置を知らせるように、
 君の隣で鳴らし続けた。
[PR]
by ichimen_aozora | 2005-03-15 04:20 | ふたり sideA
飽和
 予想よりもずっと
 君の存在感が強く残るので
 私は簡単に飽和して
 何も手につかなくなってしまう
 一緒にいた時間は他愛なくてずっと
 くだらない話ばかりしていたのに今
 ただそばにいた時間の余韻の中で
 私は無防備に揺れ続けていた
 あんまり強く残るので
 なんだか壊れてしまいそうだ
 私の小さなこころが飽和して
 突き抜けて暴走してしまいそう
 壊れてしまえるならきっと楽かしら
 壊れてしまうなら君は駆けつけてくれるかしら
 一緒にいる時間は淡々と過ぎるのに今
 ひとり思い出している私はとても揺れていた
 幸せの時間のさなかはとても静かだったのに
 幸せの時間の余韻はひどく鮮烈だった
 君は今
 確かに私の中にいて
 どこかとても核心的な部分で
 大きく鐘を打ち鳴らす
 姿も見えず
 手も届かず
 声も聞こえないままでただ君は
 強く存在を主張する
 目を閉じて
 蹲って
 耳を塞いでみても
 私の想いは膨れていって
 もうすぐ壊れてしまいそうなのに
[PR]
by ichimen_aozora | 2005-03-02 04:19 | ふたり sideA