<   2005年 06月 ( 4 )   > この月の画像一覧
選択肢 (君の街 vol.4)
 俺たちは卒業し、そして予想通りに、それぞれがそれぞれの進路をとってばらばらに散っていった。
 あるものは地元に残り、ある者は東に行き、ある者は西に行った。
 就職と言う選択肢をとるものは今年もいなくて、数年のうちに皆が大学生になるだろう。高校時代という特別に聞こえる3年間はあっさりと幕を閉じ、俺たちは大学生や予備校生になった。
 俺は地元の大学に合格して、大学生をやっていた。
 滝は結局浪人して、地元の予備校に通っていた。
 そして片山は。関西の大学に合格して、この街を離れていった。片山は成績優秀だったから、その選択には誰も疑問を持たなかったし、誰も反対しなかった。

 片山は単身西に行き、あとには風のように内容のない些細な噂話だけが残っていた。
 他の誰も、何も、理由など考えなかっただろうし、そんなものは必要なかったのかもしれない。だけど、片山はもうずっと昔から、この街を離れることを決めていたようだったと滝から聞いた。
 片山は自分の家を、そしてこの街を、ずっと離れたかったらしいと言っていた。
 滝も詳しい事は知らないらしい。俺も特に、つっこんだ話を無理に知ることもないのだろう。
 どんな理由かは分からない。それでも、避けられない道がある。
 滝とのことを、考えなかったわけもないだろう。
 それでも、選ばざるを得ない選択がある。
 だって、俺はもう知っている。片山には痛みがある。決して見せはしないけれど、抱えて消えない傷がある。だからきっと、この街を出たのだろう。懐かしい風景の中に、親しい友人を置いて、付き合っていた人を置いて。

 片山には傷があったのだ。と言う事を、ようやく理解できる程度に、俺は大人になっていた。

More
[PR]
by ichimen_aozora | 2005-06-25 02:20 | 君の街
ふたりのこと (君の街 vol.3)
 片やつかみ所ない才媛。片山は不真面目だったのに本当に頭が良かった。そして片や明快な部活ばか。
 明らかにミスマッチだ、と思われていた二人は予想に反してひどく仲が良かった。そしてそのうち、他の組み合わせが思いつかないほど見慣れた二人になっていた。
 先生達すら知っていたんじゃないかと思う。二人は淡々と付き合っていた。喧嘩や別れ話のシーンなんて見たこともない。そういう意味ではひどく話題性のない二人だった。けれど、たぶん、学年では一番有名な二人だったと思う。

 特にべたべたしていたと言う記憶はない。むしろ、学校にいる間はあえて別行動をとっていたように思える。片山は、クラスメイトの滝と彼氏の滝をしっかり分けようとしていたんだと思う。同じクラスのくせにさして喋りもしない二人が、学校の外では、ひどく仲良さそうに手を繋いで歩いていたりする。俺はそんな二人をよく目撃していた。
 滝はよく、片山を自転車の後ろに乗せて走っていた。片山は後輪に立ったまま滝の肩を抱くように腕を回して掴まっていて、あれは、なんだか、見本みたいなカップルの図だった。片山が自分と滝の鞄を二つ交差にして両肩からかけていて、綺麗な髪が風に乗って。

 そういうときだけだ。俺が、滝を羨ましいと思ったのは。どこか、ぐっと、胸の奥がひどく苦しかったのは。
 だけど、割って入ろうとは思えなかった。二人は本当に仲が良くて、壊せる気がしなかった。壊したいとも思わなかった。
 俺はただ、時折息苦しさに耐えながら、何となく遠巻きに眺めていただけだ。
 
 二人はあのままずっとずっと行けばいいと思っていた。
 それは予測とか言うよりも、俺の希望的観測のようなものだったかもしれないけれど。
 二人はあのままずっと一緒で、いつか結婚でもすればいいと思っていた。
 拗ねてるわけでもひがんでるわけでもなくて、俺はこころからそう思っていたんだ。
 二人は俺たちの小さな希望で。
 誰も言い出さない控えめな羨望だった。

 

More
[PR]
by ichimen_aozora | 2005-06-22 03:09 | 君の街
片山のこと (君の街 vol.2)
 片山は、さほど目立つ要素のないような普通の生徒だった。それなのに、ひどく有名な人だった。
 それは、付き合う前も後もさほど変わらなかったから、それが原因なのではないと思う。
 明るくて不真面目で頭が良くて適当な生徒だった。なんなんだそれは、というようなまるで食い違う形容詞だけれど、何故だかしっくりと併せ持っているような人だった。
 可愛くないわけじゃない、とは思うけど、世の中可愛い人なんてのはたくさんいる。クラスにも学年にも片山より可愛い顔をした子はいたし、目を見張るようなスタイルの子もいれば、驚くほ どセンスのいい子もいた。
 だから片山はさほど特別ではなかったと思う。思うけれど、彼女には何か気にかかる要素があったと思う。でもそれはいわゆる、守ってあげたい気にさせる、とか言うものではまったくなくて。もっと、もっと神経に近い部分を一瞬掠めるような。
 当時俺たちはまだまだただのガキで、それがなんだか分からなかった。分からなかったけど、何かが気になって、妙に気に障って振り返る。と、そこには何故だか片山がいる。そういう感じ。

 今なら分かる。それはなんていうか、傷跡や不信や警戒と言った、なにか張り詰めた要素だった。彼女は明るく、ノリもよく、適当にさばけていて付き合いやすい人だったけど、どこかに絶対零度の一線を持っていた。俺はその気配だけを感じて振り返るけれど、そこにはそつなく笑う彼女がいるだけだった。

 何かがあったのだろう、きっと過去には。それは、言葉にしてみればほんの些細な出来事なのかもしれない。それでもどこかが傷ついていたのだろう。目に見える傷口は例えなんてことないかすり傷に見えたとしても、傷は必ず痛みを伴うのだ。必ず、本人だけが感じる痛みを、なにも知らない他人が、気のせいだとは笑い飛ばせない。

 彼女は賢く、用心深く、恙無い日々をきっと必死で手繰っていた。軽やかな日々に紛れてほんの一瞬だけ掠める翳。彼女は決して、まばゆいばかりに輝いた人ではなかった。けれど、彼女の持っていたギャップは、その正体に気付かせないままで、ひどく人をひきつけた。

 彼女は有名な人だった。誰も、振り返る意味に気付けないままに。彼女は気になる人だった。それは、俺も、例外ではなく。

More
[PR]
by ichimen_aozora | 2005-06-14 03:12 | 君の街
偶然 (君の街 vol.1)
 部活を引退して、俺の時と同じようにしばらくほうけているかと思ったら、弟はいそいそと図書館に通っていた。やけに通いつめてるなと思っていたら、どうやら片思いなんかしてるらしい。受験生の癖に、と思わなくもないが、往々にしてそういうものだろう。

 追い詰められたこころのどこかが、ふいに見つけてしまうのだ。
 普段なら気にもしなかったはずの瞬間を、妙に克明に捉えてしまう。
 きっとそんなもんなのだろう。まぁいいじゃないか、高校時代なんて限られているのだから。そんなことを思って、俺はさして気にも留めていなかった。

 弟の恋路なんてに興味はない。弟が誰を好きになって誰にフラれてこようとも、俺には別に関係ないし。本当に、日常に紛れてすぐに忘れてしまうような他愛無い事のはずだったのに。

More
[PR]
by ichimen_aozora | 2005-06-10 03:46 | 君の街