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カンナ
赤い花。
あざかに。
青い青い空の下で
赤く赤く咲いた花。

あまりにも完全にに赤いから。
目を奪われる。
奇麗だな。
真夏のぬるい風に揺れて。
はらり、と散っても。

奇麗ね。

なにものにも混じることなく。
溶けることなく。
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by ichimen_aozora | 2005-08-29 03:00 | ひとり
熱量 (vol.4)
 深沢君、私の顔覚えてたな…

 カツカレーの残りを食べながら、ふとそんなことを思う。
 それは、私の顔が余りにも変わってないって証拠だろうか?
 そうだとしても。

 憶えてたんだな…

 その事実は、どうでもいいはずなのになんだか少し甘い。
 あれから5年経って、私はもう、あの頃みたいに無闇にイライラしたりはしないけれど。かわりに随分ぼんやりしてしまった。あんなに、研ぎ澄まされていたのがまるで嘘のよう。
 可もなく不可もない平和な生活というのは、幸せも不幸もよく分からないってことなんだと知った。
 だけどあのキャラメルの甘さを私はまだ憶えていて。
 5年という月日は、長いんだか短いんだかよく分からないけれど、あの日の延長線上に確かに私はいて、そして深沢君も、そのはずで。
 だから。要するに。つまり私は。
 今の深沢君と、話がしたいんだ、と、ふっと気が付いた。久々に、確かな実感をもってそう思った。

 これは衝動?
 気がはやるような、追い立てられるような、息苦しいようなそんな気持ち。
 きりきりと締め上げられるような、どこか懐かしい、むき出しの感情。

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by ichimen_aozora | 2005-08-13 22:34 | 熱量
熱量 (vol.3)
「それ、ラス1だから、ありがたく食えよ」
 ちょっと離れた誰かの机に座った深沢君が、やっぱり唐突に言った。深沢君の言動は、ちょっと読めない。
「深沢君は?」
「いいよ。お前にやるよ」
「深沢君って、部活は?」
 こんな半端な時間に教室に帰ってきたことの違和感に、ようやく思い当たって聞いてみる。
 こんな時間に、教室に人が来る事の方が珍しい。
「俺?バスケ部。今日は病院だから早退なんだ」
「いためたの?」
「まー。軽く。たぶん、成長痛」
「背が、伸びるんだね」
「だね。たぶんね」
「成長痛のときに無理すると背が伸びないんだよ。下手したら、壊れるし」
「誰かが言ってた?」
 私は無言で、自分の膝を小さく叩いた。ちょっと笑って、余裕そうな風を繕えたならいいけれど。
 上手くいったかどうかは、あんまり分からない。
 私の成長期は、去年の夏だった。
 待ちに待った、何よりも欲しかった、長い手足と上背を。
 失うくらいなら。
 むりなんか、しなければ良かった。
 先生に、何て言われても。
 絶対無理なんか、しなければよかった。

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by ichimen_aozora | 2005-08-12 03:23 | 熱量
熱量 (vol.2)
 あれはいつだっただろう。
 暇を持て余していたんだから、きっともう、部活をやめていた三年の頃。
 別に何事もなくて、ただひどく面倒だった。全てが。
 帰るのも立ち上がることすらも、そもそも日々を過ごす事自体ひどく億劫で、机に頬っぺたをくっつけてぼんやりとしていた。
 あの頃は、理由も原因もないままにただただ不満だった事が、今よりもずっと多かった気がする。


 学校は別に好きじゃないけど、放課後の教室は結構好きだった。
 帰宅部は早々に学校を去り、運動部は元気に活動中。
 人口密度のぐっと減った校舎は大抵静かで、薄赤く染まりかけた空が綺麗に見えた。

 突然がらがらと静寂を破って、教室の後ろの引き戸が開いた。驚いて弾かれたように振り替えると、もっと驚いたような顔をした男子が戸口に立っていた。深沢君だった。
「何してんの。お前」
「別に、何も」
 答えると、気を取り直したように教室に入ってくる。
「寝てたの?」
「寝てないよ」
「部活は?」
「帰宅部だもん」
 正直に言ったのに、深沢君は一瞬気を取られたように歩みを遅くした。
「意外だな」
「そう?」
「だって、お前、何でも出来そうだから」
「なんでもって」
「なんでも。勉強も運動も人付き合いも先生とのやり取りも、何でも器用にこなしそうだからさ」
「そんなことないよ」
 出来なかったから、こんなところにいるというのに。そんな避難がましい目を深沢君が捉えたかどうかは分からないけれど、ま、どうでもいいけどね、という声は聞こえた。
 まったくその通り。どうでもいい、そんなこと。
 他人のことなんて特に。
 彼の無造作に突き放したような言葉が心地よくて、ゆるゆるとその視線の先を追ったら、すっかり赤く染まった夕焼けが見えた。
 やっぱり綺麗だった。

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by ichimen_aozora | 2005-08-09 21:03 | 熱量
熱量 (vol.1)
「あ…」

 思わず呟いた声は小さくはなかったけれど、昼時の学食の喧騒の向こうの横顔には聞こえたはずもないのに。
 何故かタイミングよく振り向いた。目が合う。そのことに瞬時に動揺する。
「何?知り合い?」
 当然聞こえていた隣にいた友達が怪訝そうな声で聞き返しても私はまだ上の空で、視線が上手く外せなかった。
「……飴くれた人だ」
「は?飴?」

 随分と距離を開けたままばっちりと合った目が、一瞬思い巡らすように輪郭を緩めて。そして。
 また確かな形を取る。
 それから。

 小さく会釈した。ほんの小さく、首を傾げるみたいに、微かに。でも確かに。

 あ…

 つられるように、小さく返した。
 そして、そのまま前を向いて、遠ざかってしまう後姿を。
 なす術もなく見送っていた。

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by ichimen_aozora | 2005-08-06 00:09 | 熱量