ざっと見ても、片山さんの書き込みは見当たらなかった。僕はめげずにアルバムを裏返して裏表紙をめくる。裏の見返しにも同じように所狭しと書き込みがされていて、兄貴は僕が思うよりもずっと、人望が厚かったのかもしれない。
今度こそ捜索は難航したけれど、僕の予想通りに、片山さんの書き込みもちゃんとみつかった。 たった3行ほどの、短いメッセージ。小さな文字は妙にたどたどしく、意外なほどに拙い。あの人がこんな字を書くのかな…訝しく思ったけれど、ああそうか、と、また忘れがちな事実を取り戻す。 だってこれはもう、4年も前のアルバムなんだ…4年もあれば、人はどれだけ変わるのだろうか。もう一度ページを開きなおして、ポートレートを確認する。何度みたって見慣れない濃い黒褐色の長い髪と不安げに揺れた瞳は、僕の知らない彼女だった。 片山さんは、もっと静かに綺麗だったな… 僕の記憶の中の彼女は、どれも緩い風の中にいる。図書館の自習室の窓際の席で、乗せて走った自転車の後ろで。 透けるように茶色いふわふわの髪を揺らして、笑うように小さく目を細めて。 色とりどりの寄せ書きの片隅で、周辺に埋没するようでいてきっちりと輪郭を残した濃紺インクの綺麗な色だけが、いまも僕の記憶に強く跡を残している片山さんに、不思議とリンクしていた。 More #
by ichimen_aozora
| 2006-02-20 03:58
| 春休み
取り留めない思考に捕らわれながら、片付いた部屋の表面をゆるゆるとなぞっていた目の端に何かが引っかかった気がした。なんだろう、なにか見覚えある何か。
もう一度攫うように目を走らせて、机の上で目が留まる。 何気なく、置き去られている青い表紙の大判の平たい本。銀色の文字で、県立御園高等学校。僕は、先ほどの遠慮はすっかり忘れてずかずかと部屋に踏み込んだ。 どうせ信じてなんかいなかったけど。 夏の終わり、兄貴が頑なに見せてくれなかった卒業アルバムを、僕がようやく目にしたときには、もう随分と寒くなっていた。 高校の資料室の埃っぽい片隅、隠れるように密やかに並んでいた青い背表紙。僕はそれを偶然見つけて、なんだか衝動に抗えないままに、引っ張り出してそっと開いた。 とりどりの写真、整然と並ぶポートレートの中に、先輩も兄貴も片山さんも、今よりだいぶ幼かったけど、そこにはちゃんと、みんないた。 More #
by ichimen_aozora
| 2006-02-19 00:26
| 春休み
空腹なことに急に気付いて、台所に行って冷蔵庫を開けて中身を物色した。残念ながら、碌なものはない。とりあえず牛乳を取り出して、飲みきるつもりで口をつけた。春休み、平日の昼間。たった今兄貴が出て行って、家には他に誰もいなかった。
兄貴はどこにいったんだろう。 別に、どこでもいいけれど。 そう思いながらもう一度階段をあがると、隣の兄貴の部屋の扉が無造作に半分開いていた。よほど慌てて出かけたらしい。 ふらふらと、よく考えずに扉に近寄る。いつもは用もないのに入ったりはしないけれど。行き先を告げないまま慌しく出て行ったのがやっぱり何となく気にかかって扉を開けた。部屋主不在の間にずかずか踏み込むのもどうかと思って戸口に立ち止まる。いつも通りに、適当に片付いた部屋。特に変わった様子はないけれど。 まさか、この年になっていきなり家出はないよな…くだらない事を考えながらぐるりと見渡すと、多少、いつもよりは余計にきっちりと片付いているような気もした。 例えばベットとか。クローゼットの周りとか。布団がめくれていたり服が積まれていたり。そういうどうってことない行動の後は消えている。わざわざ部屋を整えていったところを見ると、やっぱり、兄貴はどこか、友達の家とかじゃなくってどこか遠くへ、出かけて行ったような気がした。 More #
by ichimen_aozora
| 2006-02-18 16:04
| 春休み
一昨日、高校生が終わった。だからなんだ、という話だけれど。
物事の終わりというものはかくもあっさりしたものだろうか? それとも僕が鈍いのだろうか。よく分からない。 入試が終わって発表を待って、ほっとしたらもう卒業式だった。 飛ぶように過ぎた3年最後の三学期は高校に顔を出す暇もあんまりなくてひどく短かった。 卒業式はただただあっさりとしていた。合格も不合格も同じくらいいるクラスの打ち上げは、妙に湿っぽかったり荒んでいたり浮き足立っていたりしていて微妙だった。 僕はといえば感傷に浸るまもなくひどく気が抜けてしまってぼんやりとしていて、要するに、意外と楽しくなかった。 受験が終わったらあれやこれやとしたいことも行きたいところも沢山あったはずなのに、なぜかすっかりその気はなくなっていた。どちらかというと面倒。というわけで、僕はひたすら、削り続けた睡眠を取り返している。 More #
by ichimen_aozora
| 2006-02-17 00:30
| 春休み
机の引き出しを開ける。探さなくても分かる、指輪のある場所。いつも目に付かないのはきっと、意識的に目をやらないからだと気が付いてはいた。目をそむけているという事実からも目をそむけるようにして。
忘れたわけではない。決して。忘れられるわけがないのだ。そう簡単に。 それぐらいの想いだったなら追い詰められる事もなかったかもしれない。今も、あれからずっと。遠く離れたままでも耐えられたのかもしれない。 ずれも歪みも許容できるほどのゆとりが、あの頃の私にあったのならば。 More #
by ichimen_aozora
| 2006-02-14 23:25
| 遠い空
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