タグ:夕焼け ( 9 ) タグの人気記事
金色の時間 (vol.3)
 突然に、彼女の髪が金色になってしまったあの頃、何があったんだろう?
「失恋でもしたの?」
「失恋したから髪型変えるなんて言い伝えみたいなこと、なんだか恥ずかしくてやんないわよー」
 彼女は呆れた顔をしていって見せたけれど。

 何かあったんだろうと思う。彼女は、自分の長くてまっすぐでさらさらした髪を、たぶん気に入っていたし大切にしていたんだ。
 大事に大事にとっておいた自分だけの宝物を、自分の手でずたずたにしてしまいたくなる。それは、哀しみ?諦め?絶望?
 ぱさぱさと、少し傷んで外向きに跳ねている毛先。
 何でもないように笑うけれどどこか空々しくて、僕はあの頃の彼女を見ているのは少しいやだった。でも、痛々しくて、危なっかしくて。どうしても、目を向けずにはいられなかった。


 

More
[PR]
by ichimen_aozora | 2006-06-11 05:15 | 金色の時間
金色の時間 (vol.2)
 手元から、なにかが音もなく滑り落ちた。
「あ……」
「ん?」
「これ、写真……?」
 束ねたレジュメの隙間からはらりと芝生の上に落ちたのは、一枚の写真だった。数人の少年が映っていて、私服だったけどたぶん高校生で、何人かが野球のユニフォームを着ていた。折り重なるように集まって、下のほうにいる子はきっと押しつぶされているんだろう、少し歪んだ顔で、一様に、無邪気に笑っていた。
 若いってこういうことだよな、なんて、思ってしまうような。明るさと無鉄砲なエネルギーに満ちた、なんだかいい写真。俺が、年を取りすぎただけなのかもしれないけれど。
「あ……、こんなとこに……」
「いつの?」
「高校。それ、かして」
 渡すと彼女はさっさと自分の鞄にしまってしまった。よく見もせずに、思い出に浸ることもなく。でもほんの少し丁寧に。そしてまた、さっきと変わらない様子で、ぼんやりと遠くの海に目を向けた。遠い港の、はじまりかけた夕焼け。
 写真に、彼女は映っていなかったのが、ほんの少し残念だった。16、7の、彼女を見てみたかったのに。きっと可愛かっただろう。あんな風に、鮮やかに笑っていたのかな?
 あの写真は、彼女が撮ったのかな。

「ねぇ知ってる?夕焼けにはね、金色の一瞬があるんだよ」
 彼女は前を向いたままふいに口を開いた。まるで俺などいないかのように傍若無人に、気まぐれなつぶやきのように。
「知らない」
「もうすぐ。もうすぐやから、見逃さないといいよ」
 時田君にも見てほしいの、なんて、言ってくれたらものすごく嬉しいのに。
 ばかげた夢みたいなものだけど。

More
[PR]
by ichimen_aozora | 2006-06-10 01:00 | 金色の時間
金色の時間 (vol.1)
「いない…」
 4限目のチャイムが鳴り響いても、彼女は教室に来なかった。この授業、取ってるはずなのに。木曜日の唯一被る履修。
 今日、行政法のノート持ってきてくれるって言ったのに…。
 どうでもいい瞬間にはあっけなく見つけることが出来るのに、探している時はいつもいない。僕から見た片山ちひろは、そういう人だった。

 気だるい午後の授業を何とかやり過ごし、終了のチャイムとともに席を立った。一応、彼女の分のレジュメも貰っておいた。まぁ彼女のことだから、妙に広い人脈と伸縮自在の結束力で、レジュメなんて簡単に手に入れるのだろうけれど。

 僕はそうはいかないからなぁ…一人ごちながら、明るい午後のキャンパスを巡る。彼女を探して。予約済みのノートが、彼女の取ったものかどうかは分からないけれど、そのノートが、僕の単位取得を助けてくれることは間違いないだろう。

 学食にも図書館にもいない。自販機前のベンチにも。
 ほんとに来てるのかな…念のため携帯をチェックしたけれどメールも着信もなかったから、急用って訳でもないらしい。
 どこかにいるか、もしくは完全に忘れられてるか。
     どっちかだ…
 ぐるぐる歩く。ぐるぐる。
 途中彼女とよく一緒にいるメンバーを何人か見かけたけれど彼女は一緒にいなかったので、これはもう、忘れられたってのが濃厚だろう。
 あーあ。まぁ、仕方ないかなぁ。借りるのはこっちだし。
 諦めて、少し早いけどバイトにでも行こうと思って正門前のバス停を目指していると、ふと、行き交う学生の群れの向こうに見覚えのある、限りなく金色に近い茶髪が見えた。
 正門へと続く大階段の横に広がる芝生の傾斜に、彼女はひとりで、膝を抱えるようにして座っていた。

More
[PR]
by ichimen_aozora | 2006-06-08 14:52 | 金色の時間
熱量 (vol.4)
 深沢君、私の顔覚えてたな…

 カツカレーの残りを食べながら、ふとそんなことを思う。
 それは、私の顔が余りにも変わってないって証拠だろうか?
 そうだとしても。

 憶えてたんだな…

 その事実は、どうでもいいはずなのになんだか少し甘い。
 あれから5年経って、私はもう、あの頃みたいに無闇にイライラしたりはしないけれど。かわりに随分ぼんやりしてしまった。あんなに、研ぎ澄まされていたのがまるで嘘のよう。
 可もなく不可もない平和な生活というのは、幸せも不幸もよく分からないってことなんだと知った。
 だけどあのキャラメルの甘さを私はまだ憶えていて。
 5年という月日は、長いんだか短いんだかよく分からないけれど、あの日の延長線上に確かに私はいて、そして深沢君も、そのはずで。
 だから。要するに。つまり私は。
 今の深沢君と、話がしたいんだ、と、ふっと気が付いた。久々に、確かな実感をもってそう思った。

 これは衝動?
 気がはやるような、追い立てられるような、息苦しいようなそんな気持ち。
 きりきりと締め上げられるような、どこか懐かしい、むき出しの感情。

More
[PR]
by ichimen_aozora | 2005-08-13 22:34 | 熱量
熱量 (vol.3)
「それ、ラス1だから、ありがたく食えよ」
 ちょっと離れた誰かの机に座った深沢君が、やっぱり唐突に言った。深沢君の言動は、ちょっと読めない。
「深沢君は?」
「いいよ。お前にやるよ」
「深沢君って、部活は?」
 こんな半端な時間に教室に帰ってきたことの違和感に、ようやく思い当たって聞いてみる。
 こんな時間に、教室に人が来る事の方が珍しい。
「俺?バスケ部。今日は病院だから早退なんだ」
「いためたの?」
「まー。軽く。たぶん、成長痛」
「背が、伸びるんだね」
「だね。たぶんね」
「成長痛のときに無理すると背が伸びないんだよ。下手したら、壊れるし」
「誰かが言ってた?」
 私は無言で、自分の膝を小さく叩いた。ちょっと笑って、余裕そうな風を繕えたならいいけれど。
 上手くいったかどうかは、あんまり分からない。
 私の成長期は、去年の夏だった。
 待ちに待った、何よりも欲しかった、長い手足と上背を。
 失うくらいなら。
 むりなんか、しなければ良かった。
 先生に、何て言われても。
 絶対無理なんか、しなければよかった。

More
[PR]
by ichimen_aozora | 2005-08-12 03:23 | 熱量
熱量 (vol.2)
 あれはいつだっただろう。
 暇を持て余していたんだから、きっともう、部活をやめていた三年の頃。
 別に何事もなくて、ただひどく面倒だった。全てが。
 帰るのも立ち上がることすらも、そもそも日々を過ごす事自体ひどく億劫で、机に頬っぺたをくっつけてぼんやりとしていた。
 あの頃は、理由も原因もないままにただただ不満だった事が、今よりもずっと多かった気がする。


 学校は別に好きじゃないけど、放課後の教室は結構好きだった。
 帰宅部は早々に学校を去り、運動部は元気に活動中。
 人口密度のぐっと減った校舎は大抵静かで、薄赤く染まりかけた空が綺麗に見えた。

 突然がらがらと静寂を破って、教室の後ろの引き戸が開いた。驚いて弾かれたように振り替えると、もっと驚いたような顔をした男子が戸口に立っていた。深沢君だった。
「何してんの。お前」
「別に、何も」
 答えると、気を取り直したように教室に入ってくる。
「寝てたの?」
「寝てないよ」
「部活は?」
「帰宅部だもん」
 正直に言ったのに、深沢君は一瞬気を取られたように歩みを遅くした。
「意外だな」
「そう?」
「だって、お前、何でも出来そうだから」
「なんでもって」
「なんでも。勉強も運動も人付き合いも先生とのやり取りも、何でも器用にこなしそうだからさ」
「そんなことないよ」
 出来なかったから、こんなところにいるというのに。そんな避難がましい目を深沢君が捉えたかどうかは分からないけれど、ま、どうでもいいけどね、という声は聞こえた。
 まったくその通り。どうでもいい、そんなこと。
 他人のことなんて特に。
 彼の無造作に突き放したような言葉が心地よくて、ゆるゆるとその視線の先を追ったら、すっかり赤く染まった夕焼けが見えた。
 やっぱり綺麗だった。

More
[PR]
by ichimen_aozora | 2005-08-09 21:03 | 熱量
熱量 (vol.1)
「あ…」

 思わず呟いた声は小さくはなかったけれど、昼時の学食の喧騒の向こうの横顔には聞こえたはずもないのに。
 何故かタイミングよく振り向いた。目が合う。そのことに瞬時に動揺する。
「何?知り合い?」
 当然聞こえていた隣にいた友達が怪訝そうな声で聞き返しても私はまだ上の空で、視線が上手く外せなかった。
「……飴くれた人だ」
「は?飴?」

 随分と距離を開けたままばっちりと合った目が、一瞬思い巡らすように輪郭を緩めて。そして。
 また確かな形を取る。
 それから。

 小さく会釈した。ほんの小さく、首を傾げるみたいに、微かに。でも確かに。

 あ…

 つられるように、小さく返した。
 そして、そのまま前を向いて、遠ざかってしまう後姿を。
 なす術もなく見送っていた。

More
[PR]
by ichimen_aozora | 2005-08-06 00:09 | 熱量
放課後
 職員室から部室に向かう途中に3-5の教室はあって、俺はいつものように無意識に中を覗き込んだ。扉は半分ほど開いていて、電気は消えていて、教室は橙色に沈んでいた。
 ふと目の端を何かが掠めたので何気なく追うと、グラウンドに面した窓の端一つだけが開いていて、カーテンがゆらりと翻った。
 彼女が開いた窓に凭れるように立っている。
 ああ、まただ。扉が開いていたから、いるかもしれないとは思っていた。
 後姿で顔は見えないけれど、あれは絶対に彼女だ。
 
 部長の俺はいつも部活の後、職員室に倉庫の鍵を返さなければならなくて、だから毎日同じ時間に教室の前を通り過ぎる。そして、度々、彼女の後姿を見かける。
 グラウンド側の窓の一番左。グラウンドはよく見えて、グラウンドからは死角になる場所だと、彼女も春まではグラウンドにいたから知っていたんだろう。
 3-5は俺の教室。そして彼女の教室。

 

More
[PR]
by ichimen_aozora | 2004-11-11 07:12 | ひとり
夏と青と空と夕焼け
 私たちはきっと、互いに臆病で優しすぎて、小さな嘘ばかりついていた。自分を守るために。お互いを守るために。
 それは罪もなく他愛ないものばかりだったけれど、自分ばかりをひどく狭い場所に追い詰めて、私たちは、窒息しそうになって目を背けた。
 ひどく小さな嘘だったのに。
 今なら分かる。守りたかったものはとても些細なもので、そして、そう簡単に失われるものではなかったのだけれど。
 あの頃、私たちは何も分からずに。
 ほんの少し傷付いただけで、粉々に壊れてしまいそうで。
 まるで近づけなかったね?
 思わず伸ばした手が空を掴むだけ。

 君は今頃どこにいるのだろう?
 私は。私はここにいます。
 背が伸びたけれど、空は相変わらず高いままです。
 色々な事が変わったと言うけれど、それでも抜けるように青く見えます。
 君は今頃、何をしているだろう?
 また出会えたらいいのにと心から思っていました。
 何も行動は起こさないまま、私は空を見上げたままで、心から願いました。
 もしもう一度会えたときにそれが奇跡だとか運命だとか思えるように、探さないでいようと思いました。
 私はここです。変らないまま。
 何か、原点のようだと思うのです。
 夏と青と空と夕焼け。
 あなたには伝わるといいなと願っています。




人気blogランキング←ランキングに参加しています。よろしければぺちっとひとつ☆


 
[PR]
by ichimen_aozora | 2004-09-25 05:49 | ひとり