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雪あかり
 眠ろうと思って眠れなかった朝に近い深夜、まだ明けてはいないはずの曇りガラスの外の景色が妙に明るかったので窓を開けてみたら、天気予報を無視して、しんしんと雪が降っていた。
 気付かなかっただけでだいぶ前から降っていたらしく、道路も樹も隣の家の屋根ももう薄っすらと白く覆われていて、ほんの少しの街灯のひかりをそっと跳ね返していた。

 雪が降るとなんだか得したような気分になる。

 朝になって出かけなければならないときには寒くて濡れて歩きにくくて面倒なだけなのに。
 こうして安全で暖かな部屋の中から見ているだけの雪はただ白くて穏やかで、街の音を吸い込むように、私のこころの雑音もさり気なく吸い込んでいく気がする。
 誰も踏み荒らしていない朝に近い深夜。
 何の跡もないただ滑らかに平らな世界が、しんしんと厚みを増していく。
 押し寄せてくる静けさは決して重たくも不安を掻き立てることもなく、細かく震え続ける内心の表面をそっと宥めるように隠すように、私の中に積もっていく。

 ああ、もうすぐ夜が明ける。

 世界がざわめきだす予感に、たった今出来上がっている白い世界が乱されるのを感じて切なくなり、それでも少しだけ安堵する。

 もうすぐ夜が明ける。
 眠らなければ。

 ふと思い立って窓を開けてみたら外は驚くほど冷たかった。
 慌てて閉めるその直前に大きく息を吸ったら、肺の奥に入り込んだ空気が冷たすぎて少し痛んだけれど、しんしんと私の中に積もっていた静けさが丁度よく満たされたような気がしたので、何となく満足して窓をきっちりと閉めて鍵をかけて、カーテンを引いた。
 上手く眠れなくても、横になって目を閉じよう。
 今、せっかく私の内側に積もったものが出来るだけ乱されないように、完全に明るくなるまでそっと、横になって静かに身を潜めていよう、と思った。
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by ichimen_aozora | 2005-01-10 02:56 | ひとり